【連載小説第2回】『クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間』

【連載小説第2回】『クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間』

2018/07/22 18:00

GooglePlayブックス2014ベストセラー受賞作!
オシリス文庫版第1巻丸ごと公開第2回!

クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間 クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間 (オシリス文庫)

クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間
著者:桐刻/イラスト:うなさか

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◆2日目

 4時にセットしておいた携帯のタイマーが鳴った。
 まずは習慣になっている目覚めの一服。枕もとの紙箱とライターを探って火をつけた。
 腹が減りすぎて頭がくらくらする。
 秋になったばかりだがさすがに外はまだ暗い。ゴミの散らばる床を勘を頼りに歩いてトイレへ行った。ヒゲはなかなか伸びないほうだから目立たないかぎり放置。
 なに食べようか、と思いながらリビングに戻ると、和室の襖が小さく開き、

「おはようございます」

 と、三つ指ついた麻友が顔を出した。

「うぉっ」

 少しびびった。
 家出少女を連れ込んでることなんてすっかり忘れてた。そして弁当食うのも忘れてた。どうりで腹が減ってるわけだ。
 ゴミ袋と一体化しかけていたコンビニの袋の中から、すっかり冷えきった唐揚げ弁当を取り出した。
 朝から油ものか……腹減ってるからいっか。
 弁当を食べていると横からの視線を感じた。

「……腹減ったの?」

「いえ、朝から脂っこいもの食べて平気ですね、と」

「ほっとけ」

 こいつはメシはどうするんだろう。
 昨日は食べたと言ってたが。

「ほれ」

 唐揚げを箸でつまんで目の前に持っていった。

「なんの儀式ですか?」

「ちげーよ、口開けろ。あーんだ、あーん」

 小さく口を開けたままにしていたから無理やりねじ込んでやった。

「朝から脂っこいもの食べて平気なんだな」

「……あなたが食べさせたんじゃないですか」

 むぐむぐと噛んで飲み込んでから麻友はぼそっとつぶやいた。
 俺はゴミ袋と融合しかけていたバッグの中から鍵を取り出し、麻友に放り投げた。

「帰るんなら鍵かけていけよ。かけたら新聞受けから放り込んでおけ。もし腹減ったんならそこの段ボール箱の中にカップ麺入ってるから。家の中のものなら勝手に使っていいぞ」

「はぁ」

 聞いているのか聞いていないのかわからない返事をする麻友。
 俺はそのままアパートに麻友を残しバイトに出かけることにした。
 まだ名前しか知らない少女を部屋の中に残すのは、どう考えても無用心なことだ。残した俺が考えることじゃないかもしれんが。
 だけど俺の部屋の中には貴重なものなんてほとんどなかったりする。通帳も財布も常に持ち歩いている。自衛のため、というよりただ面倒くさいから。
 つか持ち歩くのも面倒くせー。

         *

 ……生きるのは面倒だ。

 働かないと食っていけない。
 食わないと生きていけない。
 他人をほめないと生きていけない。
 他人を蹴落とさないと生きていけない。

 全部面倒くさいことだ。
 意味なんて聞かれてもきっとないと答え、将来になんの結果も残さないようなバイトを繰り返して、ただ生きている。
 今日は朝から倉庫で働いて、終わった足でドラッグストアに行く。適当に挨拶をして適当に仕事をする。全部適当、超適当。

「ねー、比良くん比良くん、これからあそぼーよ」

 休憩中、俺と同じシフトで配属された本田さんが話しかけてきた。明るく人懐っこい女子短大生。麻友とはまったく違うタイプだ。
 そして俺はこういうタイプが苦手だ。
 悪意もなくこっちが来てほしくない境界に来るから。
 俺は誰とも深く関わりたくない。

「今日はちょっと……用事あるんで」

 用事があるというか、部屋に残してきた麻友のことが気になる。盗まれるものなんてなにひとつないが、やはり自分の部屋に誰かいるかもしれないというのは落ち着かない。

「えー、なんかいっつもそうじゃん。顔いいのに付き合い悪いなんてもったいないよ? お金ないなら比良くんち遊びに行こうか?」

「それは本当に勘弁してください。足の踏み場ないですよ、うち」

「あはは、先月に出し忘れたゴミ袋があるとか?」

「半年前のなら」

 明るい笑顔を振りまいていたはずの本田さんの顔が凍りつき、急に真面目なものになった。

「……比良くん、うち、食品も扱ってるの知ってるよね……?」

「薬もあるでしょう。完璧です」

 なにかに誘われるどころか「さっさと部屋帰ってそれ捨ててきなさい!」と仕事もそこそこに追い出されてしまった。ラッキー、……と言っていいものやら。

         *

 ほんの少し早い時間だが、俺はアパートに戻ることができた。
 ちょうど午後4時。この季節だとまだ昼間だ。なのに外から見ても俺の部屋に誰かいるのはわかった。
 なぜなら狭い窓が開いて洗濯物が揺れていたから。あそこに洗濯物が干されるなんていつぶりなんだ。もしかしたら初めてなのかもしれない。
 それよりまだ帰ってないのか。
 俺はアパートの階段を上って自分の部屋の扉を開けた。

「……おーい、まだいるのか……」

「お帰りなさいませ、ご主人様」

 帰った瞬間の第一声。どこのメイドだ、おまえは。

「ご主人様じゃねーし」

 しかも部屋の中がやたらきれいになっていた。玄関から台所まではゴミの山が積まれているはずだったのになくなっている。ひさしぶりに磨かれた床という存在を見た。
 全部はさすがに無理だったのか、整理されているのは台所周辺だけだ。和室のほうはよく見てないがほとんどそのままだ。そっちすればいいのに。

「ところでご主人様」

「だからご主人様じゃねーって。俺は」

 そこまで言ってまだ名前を教えてないことに気づいた。

「比良克樹。好きに呼んでいい」

「ご主人様」

「いや、ご主人様はやめろ」

 しつこい。

「好きに呼んでいいって言ったのに……」

 麻友は小さく口をとがらせてすねた。本当に呼びたかったのか?

「名前で呼べ、名前で」

「それでは克樹さん」

「お、おう」

 よりにもよって下の名前か。普通、苗字じゃないのか。
 好きに呼べって言ったのは俺だが。

「どうやらこの家にはカップ麺とビールとお米以外の食料はないようですね。克樹さんのお身体のことを考えると心配で心配で、やはり若いといっても」

「結論から言え」

「金を出せ。いえ、お金を少々いただきたいのですが」

「……いくら?」

「そうですね、多ければ多いほど個人的にはうれしいのですが……1000円ほどでどうでしょうか」

 意外と少なかった。
 掃除の報酬としてもっと要求されるかと思ったのに。
 俺は財布から1000円札を取り出し、麻友に渡した。麻友はそれを丁寧に折り畳み、ポケットの中へと差し込んだ。

「それではお留守番よろしくお願いしますね」

「あー、うん、いってらっしゃい……」
 帰ってくるつもりなんだな、と複雑な気分で見送った。
 30分くらいすると近所のスーパーの袋を持って帰ってきた。

「おかえり」

 帰ってきたから一応声をかけておいた。

「………………ただいま、です」

 ためらいがちに言われた。そりゃ自分の家じゃないから慣れないか。

「これお釣りです。それではすぐできますから待っててくださいねー」

 麻友はどこかから取り出したエプロンをつけて……どこにあったんだ? 磨かれたばかりの台所で料理を始めた。

 なにかの歌を口ずさみながら野菜を切る麻友のうしろ姿。エプロンの紐がなにかの生き物のようにぴょんぴょんはねている。コトコトと音を立てて煮えている鍋。

 なじみがなさすぎてどれも落ち着かない。

 そっと煙草に手を伸ばしたら……。

「ダメですよ」

 振り向いてもいない麻友に言われた。

「料理中に煙草なんか吸われたら材料に煙草の匂いが染みちゃいます」

「……あー、うん」

 煙草で心を落ち着かせることもできない。
 ……つか、なんでわかったの?
 30分もすぎてないはずなのに、3時間くらいすごしたような気がした。
 小さなちゃぶ台の上には味噌汁に肉じゃがと焼き魚という俺にとってはかなり立派な夕飯が並んでいた。

「ごはんも炊いてますからねー」

 しばらく使っていなかった茶碗に真っ白な飯が盛られて俺の前に置かれた。
 箸でじゃがいもをつまんで口に入れると、うまかった。
 麻友も俺の向かいに座ってにこにこと箸を動かしている。なんでうれしそうなの?
 いつもの俺ならコンビニ弁当とビールとつまみで夕飯をすませてしまうから、夕飯と煙草だけでも1000円は超えてしまう。
 おまけに掃除までしてくれるならこいつがいてもいいのかもしれない。
 ……んなわけないか。

「ごちそーさまっと。じゃあ食べ終わったし……警察行くか」

「ええ……っ!?」

 茶碗を空にしての俺の言葉に、麻友は口に手をあてて目を見開いた。まるで末期の癌か世界の終わりでも告げられたような顔。なぜにそんなにショック受ける必要があるか。

「捜索届とか出てるんじゃないのか」

「あ、その心配はいりませんから」

 だから大丈夫ですよ、ね? と言わんばかりに麻友はほほえんだ。

「まぁ、いろいろ事情はあるのかもしれないけど……」

 突っ込んで聞くのも面倒くさかった。
 それに俺だって家出じゃないけど似たようなものだ。

「お邪魔ですか?」

「べつに」

 むしろ掃除をやってくれたのはありがたい。
 調子に乗りそうだから絶対に言わんが。

「よく知らんが、帰りたくないなら帰りたくないでどっかに保護してもらったほうがいいんじゃないのか?」

「じつはですね……私の母は天使なんです。1000年における天魔戦争を経て、天界の姫である母と魔界の王が結婚することで戦は鎮まりました。ですが人間界に封じ込められた邪神が復活してしまうので、選ばれた戦士として私が」

「そういうのいいから」

「そうですか? このあと文庫本10冊くらいの超スペクタルドラマが始まりますのに」

 やがては映画化です、と拳を握りしめて麻友は熱く語った。
 えーっと……そういう話だったけ?

「ですが、いつまでもお世話になるわけにはいきませんし……昨晩から1週間、今日から6日でどうでしょう。1週間、克樹さんのお世話をします。お掃除から食事の用意まで、もちろん望むのでしたら夜のお世話も」

「震えてたくせに」

「あれは寒かったからです」

 まだ言うか。

「まぁ1週間くらいなら」

 自分から連れ込んで追い出すのも気がひけたが、いろいろ首を突っこんで世話するのも面倒くさかった。

「ありがとうございます。それでは食べ終わりましたことですし、さっそくしっぽり大人の時間を……」

「食器洗え! 風呂掃除! それから寝ろ!」

「えええー……ご主人様、横暴すぎます……」

 横暴と文句をつけられてしまったが、麻友は俺が言うとおりに食器を洗い、風呂場に向かった。ブラシをこする音とシャワーで浴槽を流す音が聞こえてくる。
 そして俺は食後の煙草をのんびりと吸った。
 麻友は風呂場から戻ってくるとまだ片づけきれていない台所周辺のゴミを移動し始めた。
 俺の背後でちょこちょこと働いている昨晩までは知り合いじゃなかった少女と、寝転がりながらぼーっと煙草を吸ってる俺。
 ……あれ、なんか俺ってクズじゃね?
 なにか手伝ったほうがいいんだろうか。面倒くさいけど。

「克樹さん。お風呂沸きましたよ、どうぞ」

「あ、ああ……」

 にこにこと麻友がタオルを差し出すものだから、俺はそのまま風呂場に向かった。
 いつもはシャワーですませているからお湯をためるのはひさしぶりだ。……掃除したのも何カ月ぶりなんだろう。相当汚かったはずだろうに。
 まるで他人の部屋に来てしまったかのように落ち着かない。
 面倒なことなんてなにひとつないはずなのに、面倒くさい。
 なんでだ。

「おまえも入れよ」

 風呂からあがって、なぜか和室の布団の上で正座をしている麻友に声をかけた。電気はどこの部屋もついていなかった。

「眠らずに待っててくださいね?」

「いや、寝るし。明日超早いし。おやすみ」

 台所のソファベッドを開いて俺は毛布を頭まで被った。
 昨日と同じようにとくに手を出されることもなく、背後の気配は足音も立てずに風呂場に向かった。
 本当に早いから寝るか。
 目を閉じてできるだけ早く眠ろうと思ったのに。
 まず小さな衣擦れの音が聞こえた。そして風呂場が開く音。お湯が流れる音に、洗面器が軽くぶつかる音。
 …………。
 ……落ち着かない。
 いやいや、べつにこれからなにかあるわけじゃないだろ。
 ぎゅ、と目を強く閉じると、よけいに耳に集中してしまう。おかげでなにをやっているのか想像できる。
 ああ、いま髪を洗ってるな。そして流した。今度は身体か。
 昨晩見た半裸の姿や、さっき見たエプロン姿のうしろ姿が強く思い出され、白く細いうなじに黒髪がはりつく姿や小さな胸のあいだを水が流れるところまで頭に浮かんできてしまい……。

「……うぁっ!」

 小さくうめいて俺は起き上がった。
 だ、ダメだ、そんなもの想像したらますます寝られなくなる!
 羊だ、羊を数えるんだ、羊が1匹、羊が2匹……。
 200匹くらい数えたところで風呂場の扉が開く音が聞こえた。ひた、ひた、と裸足で歩く音が響く。気配は襖の前で止まり、静かに中に入っていった。
 俺は勝手に飲み込んでいた息をゆっくりと吐き出した。

 1週間、正確にはあと6日か。
 ……慣れれば大丈夫だろうか。

 なんて思ってたら襖が開く音がした。とたんに、どっ、どっ、と痛いくらいに動き出す心臓。気づかれないように息をひそめるのに必死だった。
 トイレか? トイレだよな?

「……隣、寝てもいいですか?」

 布団らしきものをひきずる音と一緒に麻友は眠っているはずの俺の背中に聞いた。

「……襲わないなら」

「襲うとしたら克樹さんのほうでしょう」

 いや、どう考えてもおまえのほうだろ。
 でも口ではいろいろ言ってるけどこいつは夜這いなんてできる性格じゃないと思う。
 さっき想像してしまった風呂場の姿は無理やり頭の中から追い出した。
 麻友は和室から持ってきた布団をソファベッドの隣に敷き、俺の隣に寝た。さっきよりも近くにいるはずなのに、俺の心臓は平常と同じように動きだしていた。

「克樹さんはどうしてひとり暮らししてるんですか?」

 毛布の向こうから小さく声をかけられた。

「どうしてって……とくに理由なんてないけど」

「だって克樹さん、すっごい面倒くさがりだからひとり暮らしなんて向いてませんよ」

「いろいろあるんだよ、いろいろ」

「ないって言ったくせに」

「うるせー、寝ろ」

 むぅ、なんて不満げな声のあと、麻友はためらいがちに俺に聞いた。

「……克樹さんには家族いるんですか?」

「いるさ。……いたな。親父がよその女に手出して、妊娠させちゃって、それでいろいろ金とか必要になって……親父は女と逃げて行方不明だし、かと思えばおふくろも男作って帰ってこないし。だから大学にも行けなくなって……」

 ってなんで俺はこんな話をしてるんだ。

「……めんどくさ……」

 ごろんと横に転がった。
 またも「ごめんなさい」と背中につぶやかれた。

 それがおまえの寝る前の挨拶なの?

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●【連載小説第3回】※エッチシーンあり『クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間』

著者・桐刻先生インタビュー記事はこちら!


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クーデレすぎる未来の嫁の面倒な7日間

著者:桐刻
イラスト:うなさか
レーベル:オシリス文庫


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