人気漫画家の連載コラム! 「全身貞操帯」「触手エステ」──アダルトライトノベル「オシリス文庫」の個性的なプレイやテーマをカレー沢薫先生が切れ味するどく語ってくれます! あなたの知らなかった性癖が花開いちゃうかも!?
(注:コラム内でオシリス文庫の刺激的な挿絵が登場することがあります。周囲にはお気をつけください)
「男なんだから性欲があるのは当たり前」
下半身の不祥事を起こした者がそんな言い訳を口にすることもあるが、それは大きな間違いである。
まず、女でもハチャメチャに性欲がある人もいる。
むしろ、男の性欲云々より女には性欲がないという誤解の方が女としては困る。
とにかく人間なら性欲があるのは当たり前である。
しかし「目の前のJKのケツがどれだけまぶしくとも、手を伸ばす前に田舎のおっかさんの顔を思い浮かべて瞬時に解脱(げだつ)できる」など、己の性欲を自在にコントロールできてこその人間、そして「人間の漢(おとこ)」である。
それができなければ、ただの動物のオスでしかない。
しかし、世の中には残念なことに、己の性欲に負けて動物と化してしまう人間もいる。
そんな人間のオス、否、ケダモノが「お嬢さんをください」とやってきたらどうだろうか。
まだポメラニアン(♂)が来た方が「カワイイ」という一点のみで「採用」である。
ただでさえ、娘が連れてくる男というのは父親にとっては苦々しいものであり、どんなに文句のつけどころのない「俺が女だったら、俺よりコイツに抱かれるわ」という男を連れてきたとしても、なにかケチをつけずにはいられないらしい。
私の父も私が結婚する時、夫に対して「視力が悪いのが気になる」という、よくわからない難癖をつけていたが、今思えば「女を見る目」という意味で視力が悪すぎることを指摘していたのかもしれない。
つまり私の心配ではなく夫の心配をしていたのだ。
しかし、娘がどんな男を連れてくるかが父親にとって一大事なように、男にとっても恋人の父親がどんな男かは大きな問題である。
料理は美味いが、店主の性格が最悪という店があるように、パートナーのことは愛しているが、その製造元はどうにも愛せないということはよくある。
また、性格的に難がある場合だけでなく、パートナーの実家の家業が、職人という意味ではなく「『道』を『極』めている系」ということもある。
今回はそんな「結婚を考えた相手の実家が特殊すぎた」という話である。
『婚約女神の堕落試練』
人間以外の女子とねんごろになる、という話はエロでも一般向けでも人気のジャンルだ。
「人間以外の女子」とはポメラニアン(♀)という意味でなく、人間界にやってきた人外系女子、という意味である。
この連載の第3回でも取り上げたことがある「サキュバス」は、エロ界隈では特に人気のある人外系女子である。
サキュバスとは「夜な夜なドスケベお姉さんの格好で、人間の精液を搾り取りにくる」という女悪魔のことだ。
あまりにも夢がありすぎて「某猫型ロボットとサキュバス、突然押しかけられるならDOTCH?」と聞かれたら即答を迷う男も多いのではないだろうか。
ちなみに「猫型ロボットの腹袋からサキュバスを出してもらう」という答えは無効だ。
しかし好きな食べ物欄に「ラーメン」のノリで「ザーメン」と書くようなビッチはノーサンキューという人もいるだろう。
そんな清純派の人が好む人外系女子といえば、天使、妖精、そして女神などだ。
そして今回紹介する作品『婚約女神の堕落試練』のお相手は「女神さま」である。
この物語はまず主人公の会社員「神木光太郎」が、大学時代からつきあっている女神「エルシーナ」との結婚を許可してもらうべく、彼女の実家に行き、父である人間界をつかさどる神「アレックス」にあいさつをするところから始まる。
一般誌のラブコメであれば、ここに到達するまで30巻は要すると思うのだが、本作は本当にそこから始まるのだ。
一応「留学生のエルシーナにひと目ぼれし、猛アタックの末つきあい出したら、なんと人間界について勉強中の女神さまだった」という少年誌だったら5巻分は騒げるであろう経緯について冒頭でさらりと語られている。
娘が男を連れてきたというだけでも気に入らないのに、それが人間の男ということもあり「どうせ人間の男なんて性欲まみれの獣、お前のことも体目当て」と、娘の前でそんなこと言うてやるなよ、なことを言って父アレックスは大反対。
それでも「俺たちはマジなんです」と食い下がるふたりにアレックスはある「試験」を提案する。
その試験とは「エルシーナに邪(よこしま)な気持ちを抱くと体が異形化し、理性も失われてしまう」という魔法陣を幸太郎にほどこしその状態でエルシーナと1週間同棲し、エルシーナの純潔が保たれたままなら結婚を許可する」というものであった。
娘を性欲まみれの人間なんかにあげられないんだからね!と言いながら、自ら娘をエロシチュにさらすとはなんというツンデレ、もしかしたらこの物語のヒロインはオヤジなのかもしれない。
だが、光太郎もエルシーナも非常にマジメな性格のため「お前は娘をヤられたくないのか?ヤられたいのか?」というツッコミ不在のまま、女神と異形(予備軍)の同棲生活は開幕する。
ちなみに「異形化」とはどういうことかというと、すでに説明するのも野暮とは思うが「股間が触手化」である、むしろほかに触手化するところがあるなら教えてほしい。
腕や舌なども触手化していきはするのだが、あくまでセンターは股間の触手だ。
しかし、親の顔より見たテンプレ股間触手というわけではなく、今回の触手はタコのような吸盤つきの、日本を代表する有名浮世絵画家リスペクトスタイルであり「吸いついてくる」タイプである。
女性向け大人の玩具でも「吸引式」がはやっているというし、女が「吸い」に弱いということをよくわかっていらっしゃる。
「触手」という鉄板テーマだからこそ作家性が光るのだ。
光太郎がエルシーナに欲情するたびに、股間など体が触手化しエルシーナの貞操を奪おうとするが、それをエルシーナの「癒し」で抑える、というかたちで、試験に挑んでいくのだが「癒し」というのは、もちろん「射精」という意味である。
しかし試験のクリア条件は「エルシーナの純潔を守る」ことである。
股間で癒してしまったらそこで試合終了なため、おのずと手や胸に挟んだり、口奉仕からの69(シックスナイン)で癒したりしていくことになるのだが、異形化もどんどん激しくなり、最終的に屋外での素股で癒すことになったりする。
「果たして挿入さえしなければ純潔を守れたと言えるのだろうか?」
あらためて「セックスとはなにか?」を問う、哲学的な作品である。
異形化が進むとともに理性もなくなるため、徐々に我を忘れてエルシーナを責めるようになる光太郎。
このまま光太郎は、欲望に負けエルシーナをヤッてしまうのかと、手に汗握ったところで「エルシーナの方が先に我慢できなくなった」。
冒頭で言った「女にもハチャメチャに性欲がある」ということをよくわかっているのがオシリス文庫作品のいいところである。
触手を癒す快感にドハマりしたエルシーナはセルフプレジャーにふけり、さらにそれを光太郎に見つかっても隠すこともなく「早く癒させんかい!」と誘うまでになる。
果たして、光太郎はこの誘惑に耐え、エルシーナのほぼなきに等しい純潔を守りきることができるのか。
一応結末は伏せておくが、ハッピーエンドであることは間違いない。
表紙を見て「触手凌辱系はちょっと」と思った人も、内容は「触手和姦」に近いので安心して読んでほしい。
そして最後にわざわざ娘を貞操の危機にさらす謎試験の理由が明かされている。
どちらにしても娘の貞操を試験問題に使うぐらいなら自分のケツを張るぐらいしろよと思うが、もくろみが外れてしまったオヤジの姿は可愛らしくもある。
やはり「オヤジがもうひとりのヒロイン」と言ってしまってもいいような気がする。
カレー沢薫
漫画家兼コラムニスト。2009年に『クレムリン』で漫画家デビュー。近年は切れ味するどいコラムでも人気。『ひとりでしにたい』『負ける技術』『生き恥ダイアリー』など著書多数。一日68時間(諸説あり)のツイッターチェックを欠かさない。
婚約女神の堕落試練
著者:北みなみ/イラスト:月猫
購入はこちら
オシリス文庫公式サイトはこちらから